かみさま   かみさま




どうしてこんなにやさしいひとが




こんなにも闇にとらわれ苦しまなければいけないのですか










「ふわあ......もう朝?」
ちゅんちゅんとスズメの鳴き声が響く。
朝の光が眩しい。
「......」
頭が少しくらくらする。
昨日相当遅くまで残って仕事をしていたせいだろう。
頭を振って気持ちを切り替え、台所に向かう森。



朝食と朝の支度を手早く済ませ、玄関に向かう。

「それじゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい!」






森は少し急ぎ足で、自分の想い人...滝川陽平のアパートに向かった。
急ぎ足なのはもちろん早くあいたいからというのもあるが、
......他にも理由がある。


「......急がなくちゃ」






滝川の部屋のドアが目の前に立ちはだかる。
いつも、ここに立つときは少し緊張する。
森は少し深呼吸をして滝川の部屋のドアを開けた。












押し入れの、ジメジメしたにおいが鼻を刺激する。

目を開けてるのに、何にも見えない。

身体を動かしたいけど、殴られたとこが痛くて動けない。




母ちゃん、開けて、ここを開けて、ここから出して




そう叫びたいけど、身体が震えて声が出ない。



こわいよ   こわいよ



がらりと音がして、押し入れが開く。



「あ......」



母ちゃんがこっちを見てる。

母ちゃん、ここから出して

そう言おうとした時、母ちゃんは鋭いカッターをぼくに突き刺そうとした。


「ひっ......!!」


避けようとしたけど間に合わず、額に深い切り傷が出来てしまった。

額から血がだらだらと流れる。

母ちゃんは尚も訳の分からないことを言いながらぼくに鋭いカッターを刺そうとする。


銀色に鈍く光る刃が迫る。


殺される......嫌だ......こわい......こわいよぉ!!







「陽平......陽平!!!」







どこからか母ちゃんのものではない、綺麗な声が響く。


これは......この声は......
精華!!精華だ!!!



「精華......精華ぁ!!助けて!!助けてぇ!!!」











「!!陽平!!」
部屋に入ると、滝川は強くうなされていた。
額には脂汗が浮かんでいる。


悪夢、見てるんだ......!!
助けなきゃ、陽平を助けなきゃ



慌てて滝川の傍に駆け寄り、滝川を揺さぶる。



「陽平......陽平!!」



滝川を必死に揺さぶりながら、滝川を呼ぶ。
がばっと跳ね起き、激しく震えだす滝川。


「こわい......こわい......こわいよ......こわいよぉ」


今日見た悪夢はよほど酷かったのだろう。
滝川は怯えきった目をしている。
滝川の歯の音が狭い部屋に響く。

「陽平......」
滝川にそっと優しく触れる森。
少しビクッと身体を震わせる滝川。




森は、滝川を強く抱き締めた。
滝川の身体の震えが伝わってくる。




「陽平......もう大丈夫だから、もう怖くないから、私がついてるから」




滝川を強く抱き締めながら、叫ぶように言う。
手に力を込める森。
森に優しく抱き締められながら、少しずつ落ち着いていく滝川。
森は、滝川の身体の震えが収まっていくのを感じた。
森は滝川が落ち着くまで、ずっと滝川を強く抱き締め続けた。






滝川の身体の震えが収まったのを感じる。
それでもなお、滝川を抱き締め続ける森。

「......精華、俺、もう大丈夫だから」
「......本当に?もう、大丈夫?」
「うん」

名残惜しげに滝川から身体を離す。
「......なあ、精華」
「......何ですか?」


「いつも......いつもありがとな。精華......精華がどれだけ俺の支えになってるか......」


少し充血した目の滝川。
「陽平......」
少しうつむく森。
「......あ、精華」
「......何?」


「何か......顔色悪いぜ......大丈夫?」
森のふっくらした頬にそっと触れる。
心配そうな目つきの滝川。

胸がズキリと傷むのを感じる。




どうして


どうしてこんなにやさしい陽平が


こんなにも闇にとらわれ苦しまなくちゃいけないの?





両の目からぽろぽろと涙がこぼれる。




「せ、精華!?どしたんだ?どっか、痛いんか?」
おろおろする滝川。
「違う......違うんです......」
ふるふるとかぶりを振る。



森は、滝川にすがりついた。
滝川に抱きつきながら、泣きじゃくる森。




「どうして!!どうして陽平がこんなに苦しまなくちゃいけないの!?」
「精華......」
「陽平は何も悪いことしてないのに!!!陽平には何の罪もないのに!!!!」




こんなことを言っても何にもならないことは分かっている。
でも、それでも森は言わずにいられなかった。どうしても。





かみさま   かみさま


もう   陽平を闇から解放してあげて


陽平はなんにも悪いことしてないんです


陽平には何の罪もないんです


だから   どうか    どうか




「精華......」
なおも泣きじゃくる森を優しく抱き締める。
「......なあ、精華」
「ぐす......何ですか?......ひっく」



「俺さ、精華がそんな風に言ってくれるだけで、もう......凄く幸せなんだ」



「陽平......」
「......もうこれ以上はないくらい......俺は幸せでたまんないんだ......精華」


ほんとうの気持ちを言う。



俺......幸せ者だよな......本当に......
こんな......こんなにやさしいひとが傍にいてくれてんだから......



「精華......精華、もう泣かなくていいから......学校行こう?」
「ぐすっ......うん」







いつものように二人で手を繋いで学校に向かう。
「......あの、陽平」
「ん?何?」
「その、さっきはごめんね......何だか、今日に限って気持ちがおかしくなっちゃって......」
「精華......そんな、謝ることじゃないぜ」
「......え?」


「俺さ、その......嬉しかったんだ......だから、気にすんなよ......精華」
「陽平...あ」


その瞬間、軽い立ちくらみを起こしてその場に倒れそうになる森。


「せ、精華!!」
慌てて森を間一髪で支える。


「......昨日、一体どのぐらい遅くまで仕事してたんだ?精華......」
「......あ、えっと、かなり......」
「ダメだぜ、無理しちゃ......な?」
「はい......」
森は立とうとした......が、少しふらつく。



「......精華、ほら、俺がおぶってやるからさ」



ふらつく森を見かねて言う。おんぶのポーズを取る滝川。
「え、でも......」
「......気にしなくてもいいからさ、ほら、早く」
「......はい」
言葉に甘えて、滝川の背中にしがみつく。
ゆっくりと立ち上がり、森を背中におんぶして歩き出す滝川。


えへへ......精華って、暖かいな......


「......陽平」
「ん?何?精華」



「私......ずっと......陽平の傍にいるか......ら......」



森はゆっくりとそう言って、滝川におぶられながら眠った。
「......えへへぇ、それはこっちのセリフだっての!」
滝川は森を背負い直し、心なしか軽い足取りで学校へと向かった。





かみさま   あなたが陽平を解放してくれないのなら


私が陽平を闇から解放する


私が陽平を闇から解き放つ


いくら時間がかかっても


私が  必ず陽平を助ける


私が  陽平をいつか必ず闇から救い出す








お題「闇」


戻る





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送