俺は、ヒーローになりたくて



そして何より死にたくなくて



幻獣を殺して殺して殺し続けた





『紫の瞳』





教室の窓から夕日が差し込んでいる。少し、眩しい。

滝川は自分の席で頬杖をつきながらぼんやりしていた。
夕日の光を受けて滝川のゴーグルがきらりと光る。滝川は夕日から目を逸らした。
「昨日は凄まじい戦いぶりだったな、絢爛舞踏」
扉にもたれながらどこか同情を含んだような目で滝川に話しかける瀬戸口。
けだるげにちらりと瀬戸口を見る。瀬戸口は畏怖と同情の表情だ。
今教室には瀬戸口と滝川しかいない。


この目の前の小柄な紫の瞳の少年は少し前、幻獣を300匹殺した人間......絢爛舞踏となった。
しかし、この少年が絢爛舞踏になったからといって戦争がなくなるわけでもなく、
滝川は連日のように戦闘に駆り出される毎日を送っている。


「やめて下さいよ師匠......俺は絢爛舞踏じゃなくて、滝川陽平っす」
疲労を含んだ目で投げやりに瀬戸口に返す。前のように滝川と呼んで欲しいのに。
「ああ、悪いな......じゃあな」
瀬戸口はため息をついて教室を出て行った。一人教室に残される滝川。




瀬戸口が出て行った後、何となく自分の手のひらを見つめる。ごつごつした無骨な手のひら。
いまだに、現実感が湧かない。自分が幻獣を300匹殺したという実感が湧かない。
死にたくない一心で必死に戦っているうちに気付いたらこんな所まで来てしまった。
......そんな感じだ。
「......」


ほんの少し前まで俺はあれほどヒーローに憧れていたのに、
今はヒーローをやめて普通の人間に戻りたいって思ってる......


強くなれば、みんなは俺の事を見てくれると、そう思った。
きっと......認めてくれる。褒めてくれると、そう思っていた。
でも......待っていたのは拒絶だった。


「あなたは、大した化け物ですよ。今まで一番強い幻獣より、よほど殺してますね。」
「絢爛舞踏か。......俺は殺さないでくれよ。」
「あなたが微笑むと、次の瞬間殺されそうで、怖いですね。
幼少から訓練している私がそうですから、他はもっと怖いでしょう。」
「......ええと。いままでうちが失礼なこと色々言ったと思うけど、水に流してな。
悪気はなかったん。......ほんまや。うちかて怖いもん。」


分かっている。みんなは悪くない。みんなを責められない。
確かに俺は......遠坂の言う通り、バケモノになった。
青い光......精霊手も自在に扱えるようになった。みんなが俺を避けるのも分かる。
でも......俺は......褒めてくれなくてもいいから、受け入れて欲しかった。


「......精華......」
その瞬間、滝川の脳裏にふっと自分の大切な人である森精華の顔が浮かぶ。
「......だめだ。考えちゃ......だめだ」
目をつぶって頭をぶんぶん振り、頭に浮かんだ森の顔を打ち消す。
滝川は森に化け物扱いされるのが怖くて、絢爛舞踏となった日から森に話しかけていない。

加藤や遠坂......同じパイロットである壬生屋にまで拒絶されて......
その上精華にまで拒絶されたら、俺は......

「......もう、帰ろう」




女子高の生徒が、畏怖の表情でこちらをじろじろ見ている。
滝川はなるべく誰とも目を合わさないようにして校舎を駆け抜けた。




女子校  校舎前


校舎前に、あいたいけどあいたくないひとがいた。

「あ......精華」

校舎前に森精華がいた。寒そうに両手をこすっている。
「......陽平!」
滝川に気付き、小走りに近寄ってくる森。身体が強張るのが分かる。



どうしよう。どうしよう。精華にまで拒絶されたら俺は......



森に背を向けて逃げようとする。精華に会うのが怖い。拒絶されるのが怖い。
「......待って!!陽平!!」
その森の声に反応し、逃げようとした足を止めて恐る恐る後ろを振り返る。
そこには思い詰めた表情の森精華がいた。自分の心臓が嫌な音を立てている。


どうしよう。逃げたい。けど、動けない。......精華が、待ってって言ったから


「陽平......」
滝川に近付く森。ビクビクしながら森の言葉を待つ。

嫌われたらどうしよう。拒絶されたらどうしよう。怖い。怖い。

しかし、森の口をついて出たのは意外な言葉だった。

「......機体性能の限界はとっくに超えてますよね。整備士が気味悪がってますよ。
......私は別に、そんなものは信じませんけど......」


「......え?......精華?」
「......」
黙り込む森。滝川は頭の中で先程森に言われた言葉を反芻した。

俺の事を......受け入れてくれてる。人間として見てくれてる。

「精華......俺の事、怖くないの?受け入れてくれるの?」
すがるような目つきで森に問う。森は更に言葉を紡いだ。

「......うちが一番怖いのは陽平が......いなくなっちゃうこと......なんす......だから......」

「精華......」
森に......精華に対するいとおしさが頭の中で弾ける。

精華......俺が化け物じみていく事より、俺がいなくなる事を怖がってくれるんだ......

森は思い詰めた目で滝川をきっと見つめた。その瞳はうっすらと潤んでいる。
「ねえ、陽平......うち、不安で、たまらないの......
陽平が凄く強くなったって事は分かるの......でも......それでも......うち......不安で......」
滝川の少し日焼けした頬にそっと触れる。あったかい。

滝川は強くなった。しかし、強くなった分何度も何度も戦闘で危険な役目を負わされている。
森は出撃の度に胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
不安で夜眠れなかった事もある。不安に押しつぶされそうで布団の中で泣いた事もある。

「昨日の戦闘も......うち......心配で......」
森の片方の瞳から涙がぽろりとこぼれ、地面にぽたりと落ちる。
「なんで......いつも、こんな気持ちに......なるのかな......陽平が出撃するたびに......
いつも......いつもうちが、おかしくなりそうになること知ってました......?」
滝川の左手を自分の右手できゅっと握る森。森のぬくもりが掌から伝わってくる。
「精華......」

......ああ、精華の手だ。暖かいな......

森の手をゆっくりと包み込むように、次第に強く握り返す。精華を安心させたい。
「精華、俺は......俺は大丈夫だから......精華?」
森はうつむき、震えている。

「こんなことなら......こんな気持ちになるんなら......陽平を好きにならなきゃよかった......」
ぐすんと嗚咽する森。
「でも、でも、それでも、うち......陽平のこと、好きで......大好きで......」

その言葉を聞いて、心が晴れたような気がした。

好きで、いてくれるんだ......精華......

「......精華......俺は、バケモノなのに、好きでいてくれるの?」
「......当たり前です......うちは陽平のこと好きなんです......」
強引に目元を拭う森。目が充血して少しだけ赤くなっている。
「......一緒に逃げましょう。どこかに、逃げて......戦争のないところに......二人きりで。
......分かってます。逃げるとこなんて、この惑星のどこにもない。
それどころか、仲間に追われるだろうなんて。そんなことに、意味がないくらいなんて......。
でも......もう、待っているのは嫌。......嫌ゃもん......だども......うち......嫌ゃもん。」
両の手のひらで顔を覆い、ぐすぐすと嗚咽を漏らす森。



「......精華!!!」



滝川は衝動的に森を抱きしめた。力強い抱擁。
「!陽平......」
どくんどくんと精華の心臓の音が聞こえる。
森はぐずりながら滝川の背中に手を回した。
「......陽平......うち......」
森は滝川にすがりながら小刻みに震えている。


......守りたい。精華のこと守りたい。


「決めた......逃げよう!精華!......一緒に!!」


「......陽平......本当?本当に......?」
顔を上げ、滝川を見つめる。滝川は決意に満ちた目をしている。
「本当だ!決めたんだ、だから......」
「......陽平......」



「今の俺なら、精華のこと絶対に守れるから!だから、逃げよう!精華!!」



精華は俺を受け入れてくれた。拒絶しないでいてくれた。俺のこと好きって言ってくれた。
俺がバケモノになっていく事より、俺がいなくなる事を怖がってくれた。
その精華が逃げたがってる。だったら、俺は精華と一緒に逃げる。
今の俺なら精華のこと守れる。精華のためなら、なんだってする。



「陽平......陽平......!ありがとう......」
滝川にすがりつく森。そんな森を更に強くぎゅっと抱きしめる。
「逃げよう......一緒にどこかに行こう......精華!」
「......うん......!」
二人は、お互いの手を取った。二人で一緒にどこかへ行く為に。






いつも通り、HRが始まる。いつも通りの面々が教室に集まっている......滝川を除いて。
「んー?何だぁ?今日も滝川は休みかぁ?」
マシンガンを担ぎながらちらりと滝川の空いた席を見る本田。

「......ま、いいか......多分、学校に来たくないんだろうな......授業だ授業!」
そのまま授業を始める本田。他の一組の面子も知らない振りをする。速水を除いて。

ぼんやりと空席になった滝川の席を見つめる速水。

......一応、後で滝川のアパートに行ってみよう。少し心配だし。
ちらりと舞に視線を送る。舞はその視線の意味を察してくれた。




授業が一通り終わったので、学校を後にして滝川のアパートへと急ぐ。
「......急がないと......」
速水は頭の中で今頃三番機の仕事をしているであろう芝村舞に詫びを入れつつ急いだ。



目の前に、安っぽい作りのドア。
「ふう......着いた。滝川?開けるよ?」
そっと滝川の部屋のドアを開ける。ぎいとドアがきしんだ音を立てる。
滝川は部屋に鍵をつけていない。窓も開けっ放しにしている。
速水は滝川がそうしている理由をよく知っている。
そして森の尽力によって徐々にその病気が回復しつつあることもよく知っていた。
「誰もいないや......」
滝川のアパートは、今日ももぬけの殻だ。誰一人いない。
「一体どうしたんだろ......滝川の奴......まあいいや、学校に戻らなきゃ」
速水は空っぽになった滝川の部屋を後にした。




校門に、見慣れた影。
「あ、委員長」
校門で善行に出くわす。善行は速水の姿を確認するなり近寄ってきた。
「速水君......ちょっと隊長室までついて来て下さい」
「?はい」




「折り入ってお願いがあります、速水君」
伊達眼鏡から、善行の鋭い目が覗く。少し、嫌な予感。
「何ですか?」
「森さんと滝川君が失踪しました」
善行の眼鏡がきらりと光る。
「失踪......なんですか?」
「はい。滝川君のアパートはもぬけの殻......
茜君にも聞いてみましたが、森さんもずっと帰ってないそうです」
「......滝川......森さん......それで、お願いって何ですか?」
「あなたに二人を連れ戻して頂きたい」
「......」

10秒ほど、隊長室に沈黙が流れる。

......それで僕を呼んだわけか。滝川以外にあの力を使えるのは......おそらく僕だけだから。

「......はい。分かりました.......司令」
「頼みます。......滝川君と森さんは 5121に必要な人間ですからね」






「あ......舞」
隊長室から出ると、舞が腕を組んで佇んでいた。待っていてくれたんだ......嬉しい。
「善行は何と言っていた?」
「滝川と森さんが失踪したから連れ戻せだってさ」

二人が失踪した理由は何となく分かる。二人の気持ちが僕には何となくわかる。
だからこそ、止めなければ。

「......そうか」
寂しげに目を伏せる舞。
意外なようだが舞と森は仲が良い。お互いに不器用同士だからだろうか。

五秒程、沈黙が流れる。嫌な沈黙ではない。

「......厚志よ」
「何?」
「必ず......我が友を連れ戻して来て欲しい。まあ、そなたなら大丈夫だろうが......」
「......うん、大丈夫。必ず連れ戻してくるよ。舞」
すがるような舞の言葉に、力強く答える。不安にさせたくはない。
「......ああ......ありがとう」
「じゃあ、また後でね」
「うむ」
速水は舞にくるりと背を向け、走り出した。

必ず......二人を連れ戻そう。舞の為に。




校門に、遠目でもすぐに分かる印象的な鮮やかな赤毛。
「あ、瀬戸口君」
校門で瀬戸口に出くわす。待ち伏せていたのだろうか。あまりにタイミングが良すぎる。
「よお、速水」
いつもの飄々とした態度の瀬戸口。
「滝川と森さんを迎えに行くのか?」
「うん」
二人を連れて帰って、舞を安心させてあげたいから。
「......そうか......速水」
「何?」
何と聞いたが、瀬戸口のことだ。大体察しはつく。
「あの二人を連れ戻してきてくれ。......必ずな。
特に......森さんがいなくなったら未央が寂しがるからな」

未央は、森さんと仲が良い。森さんがいなくなったら未央が悲しむ。

予想通りの言葉に速水は少しだけ微笑んだ。
「うん......そのつもりだよ。滝川がいないと寂しいし、森さんがいなかったら舞が寂しがるから」
「そっか......はは、お互い尻に敷かれてるな、速水。じゃあ、また後でな」
「うん」
速水は駆け出した。見送る瀬戸口。
「......死ぬなよ、速水」




二日後



二人は、ひたすら走った。

走って、走って、走り抜いた。

食料の入ったリュックを背負って

お互いに手をしっかりと繋ぎながら

「......陽平......ごめん......ちょっと......休憩......」
肩で息をしながら森が滝川に懇願した。足を止める滝川。
「分かった。精華、大丈夫?」
「うん......」
そのまま立ち止まる二人。


目の前には、畑が広がっている。
カラスの鳴き声が響く。
もう、ここがどこなのかすら分からない。来た道ももう分からない。

「あそこに行こう、精華」
小さな駐車場を指さす滝川。あそこならゆっくり休めそうだ。
「うん」
ちょうどすぐそばにあった小さな駐車場の隅へ行き、地面に座り込む。
駐車場のフェンスに寄っかかりながら、リュックをごそごそとまさぐる滝川。
「はい!」
やきそばパンとお茶を森に差し出す。俺の分は後でいい。
「あ、ありがとう......」
やきそばパンを滝川から受け取り、もそもそとほおばる森。滝川も自分の分を取り出す。
空を見上げて、ほんの少し目を見開く滝川。もうこんな時間になってたんだ......
「うわ......もうこんなに時間経ってたんだな」

空には、薄紫色の夕焼けが広がっている。カアカアとカラスが鳴いている。
鳥が飛び立ち、夕日の向こうに消えていく。

「きれい......」
うっとりとした表情で夕焼けに見とれる森。そんな森を心からかわいいと思う。

「陽平の目と、同じ色......」

ポツリと呟く森。
「え、ああ、そういやそうだな......でも、俺の目はあんなに綺麗じゃないよ」
ゴーグルを押さえながら自嘲気味に言う。

それは、空の色だから綺麗なのであって、俺は......俺の瞳は......

どうして自分の瞳の色が紫なのかは分からない。
自分のこの瞳の色があまり好きにはなれない。

「......そんなことありません。......陽平は、自分の瞳の色が嫌いなんですか?」
「ああ......うん。あんまし好きじゃないかな」
「そう......なの......こんなに......きれいなのに?」
滝川の頬にそっと触れる。滝川の深い紫の瞳がこちらを向く。

こんなにも、きれいで透き通っているのに。

「......精華......そう思ってくれんの?」
「......はい。陽平の目は......きれいですよ。......とても」
「......」


精華がそう言ってくれるだけで、救われるような気がする。
この瞳の色はあんまり好きじゃないけど、精華がきれいって言ってくれるんなら、まあ、いいか。


「精華......ありがとうな......さ、食おう」
「はい」
二人は、フェンスに寄りかかりながらやきそばパンにかぶりついた。




やきそばパンを食べ終え、一息入れる。心地いい満腹感。気温も丁度いい。
「ふわあ......」
あくびをして、目をこする森。眠くなったみたいだ。
「あ、眠くなった?精華」
「あ、ううん、私は大丈夫だから......」
そうは言っているが、無理しているのが見え見えだ。精華らしいけど無理して欲しくない。
「......精華、無理せずに寝なよ。俺が見張ってるからさ」
「......うん......ごめんね......陽平......」
「気にすんなよ......おやすみ、精華」
「うん......」
森は滝川に寄っかかり、目を閉じた。





薄暗い中、森の寝息が響く。森の柔らかそうな頬にそっと触れる。
相当深く眠っているようで、森は特に気にせずに寝息を立てている。
ちっぽけな古い街灯に照らされて、森の寝顔が見える。覗き込む滝川。
「......えへへぇ。寝顔かわいいなぁ」
でれーとした表情の滝川。
「......!!」
しかし、その時前方から見知った人間の気配を感じ、立ち上がって前をばっと見る。

「誰だ!!」

暗闇に向かって叫ぶ。
少しずつ、こつこつという足音が近づいてくる。そこには......



「......速水」
「やあ、久しぶりだね」



そこには、三番機パイロットの速水厚志がいた。
速水はいつものぽややんとした表情だが、目は笑っていない。
その紫色の瞳で速水をきっと睨む滝川。
「......連れ戻しに来たのか?」
「うん、そうだよ。決まってるじゃない。舞の為に連れ戻しに来た」
「......嫌だ。戻るもんか」
滝川は速水を睨んだまま右手を突き出した。

滝川の右手が青く光りだす。

青く光っている滝川の右手を眩しそうに見つめる速水。綺麗だ。
「......滝川。聞きたい事がある。」
滝川を見据えつつ聞く。身構える滝川。今更何なんだ?
「......何だよ?速水」



「その強大な力を、
世界のためでも人類のためでもどこかの誰かの未来のためでもなく、
たった一人の少女のために使うつもりかい?絢爛舞踏」



「......るせーなぁ、お前だって似たようなもんだろうが、速水」
「ああ、そういやそうだね......説得は無駄みたいだね」
速水の右腕が青く光りだす。その青い光は、滝川のものと瓜二つ。
「......仕方ない、力ずくでも連れて帰る」
「......させねえ」
更に目つきを鋭くし、速水をきっと睨む。
その滝川の強いまなざしを受け止めて微笑む速水。


この少年は森さんの為なら世界を敵に回す事も厭わないのだろう。
僕と同じだ。


「じゃあ、戦おうか、滝川......お互いに......たった一人の少女の為に!」


その言葉を合図に、滝川がたっと地を駈ける。速水へと。

「おらああ!!」
「甘い!!」
速水の顔面をその青く光る右手で殴ろうとするが、速水の右手に弾かれる。
「いてっ!!」
弾かれた衝撃で地べたに尻餅をつく滝川。
「はあっ!!」
速水はその隙を狙って右手から青い刃を出現させ、滝川を斬ろうとした。
「くっ!!」
何とかその速水の刃を青く光る右手で受け止める滝川。青く目映い光がぶつかりあう。
ほんの少し驚き、ふっと笑う速水。

「ははっ!!滝川!!よっぽど森さんの事が好きなんだね!!」
「......るせえ!そーだ!俺は精華のこと大好きだ!悪いかよ!フン!!」

速水の青い刃を握ったまま立ち上がり、速水の力が弱まった隙をついてばっと離れる。
「はぁ!!」
少し離れた位置から青い光を飛ばす滝川。青い光が凄まじいスピードで一直線に速水に向かう。
「くっ......!」
青い刃でその滝川の飛ばした青い光を切り伏せる速水。
「ちっ、ダメか......」
舌打ちをする滝川。今ので仕留めるつもりだったのに。
「......僕の番だ!!」
素早く滝川に迫り、青い刃で滝川の右肩を貫こうとする。
「喰らうかよ!!」
何とか横に跳んでかわす滝川。
しかし、速水の青い刃は滝川の右腕をかすめた。
滝川の右腕の肘のあたりの服が切れ、だらだらと血が流れ始める。
「ちっ!!」
お互いに後ろに跳んで距離を取る。

「......ギリギリで避けられたか......さすがは絢爛舞踏」
「やめてくれよ......俺は絢爛舞踏じゃなくて、滝川陽平だ」

じりじりと近寄る二人。


「負けらんねえんだよ......俺は......精華のために」
「僕も舞と約束した......必ず連れて帰るってね」


二人は同時に駈けた。



『はああああっ!!!』



同時に青い光をお互いに向ける滝川と速水。

お互いの青い光が激しくぶつかりあう。
速水の頬にピッと切り傷が走る。
滝川の脇腹の部分の服が切れて、そこから決して少ないとは言えない量の血が流れ始める。
「ぐっ......」
脇腹を抱えてうずくまる滝川。指の間からじわりと血が溢れる。
服が赤く染まっていく。滝川を見下ろす速水。さすがにもう動けないだろう。
「これで終わりだ......戻ってくるんだ、滝川」
「へっ......やなこった」

脇腹を抱えながら立ち上がる。ぽたぽたと地面に血が落ちる。
「まだあきらめないのかい?滝川......!」
何か滝川からざわりとしたものを感じ、後ずさる速水。
「!何だ!?」




ざわりと滝川の赤茶けた髪が波打つ。

滝川の脇腹の傷がみるみるうちに治っていく。

滝川の両手がバキバキと音を立てて異形の物へと変化していく。

少しずつ滝川の牙が伸びていく。




滝川の瞳が、紫から赤へと変化していく。




呆然としながら滝川の変化に見入る。



「......滝川......君は......一体......」
「俺か?俺は......人間だ」



滝川の右手には、先程とは比べ物にならないほどの青い光が集まっている。
異形の物と化した右手を突き出し、一瞬で間合いを詰めて速水の眉間の前でぴたっと止める。
目を見開く速水。先程とは速さが段違いだ。
「悪いな......速水」
右手の青い光を増幅させる滝川。
「舞......ごめん」
覚悟を決め、目を閉じる。これで、もう舞に会えなくなってしまう。


その時。


「......陽平!!!」


滝川の背後から、森精華の声が響く。澄んだ綺麗な声。いとおしい声。
その森の声に反応してピタリと手を止める滝川。
背中にふわっと柔らかな感触を感じる。あったかい。



「......精華......?」
「陽平......!陽平......もういい!もういいの!」



後ろから森に抱きしめられる滝川。森の鼓動が背中から伝わってくる。
森の必死な声が滝川の背後から響く。

「陽平......うち、陽平が死ぬのは嫌......だから一緒に逃げようって言ったの......
でも、陽平が人殺しになるは......もっと嫌なの......だから......だから、もういい、もういいの!!」

声色から察するに、精華は......泣いているのだろう。


速水の眉間に突き出していた右手をゆっくりと降ろす。
「ふう......」
ため息をつき、胸を撫で下ろす速水。これでまた舞に会える。
速水はとりあえず気を利かせて二人から離れた。
絡み付いている森の手をゆっくりと離し、後ろを向く滝川。
森は、潤んだ瞳でこちらを見つめている。

「陽平......うち、うち......もういい、もういいから......」
「精華......」

異形のそれと化した両手で森を抱きしめる。森も、滝川を抱きしめる。
青い光に包まれる滝川と森。

「精華......精華はそれでいいの?」
「ぐす......もう、もういいの......だから......」
「......そっか、わかった。......本当に、それでいいんだな?精華」
「うん......戻ろう......陽平......」


そっと名残惜しそうに体を離す。



滝川の身体を纏っている青い光が薄れていく。

滝川の両手が元の状態に戻っていく。

滝川の牙が元に戻っていく。



滝川の目が、赤から紫へと変化していく。



滝川の頬をそっと撫でる森。
「うん......うち、その目の方が...好き」
森にそう言われ、うっすらと笑みを浮かべる滝川。......嬉しい。


「......へへ、ありがとな......精華......大好き......」


ーーーーーードクン。


「......ぐっ!!」

体中に激しい刺すような痛みが走る。
「陽平!」
「ぐ......ガハッ!!」
膝をつき、激しく咳き込み始める滝川。
「陽平......陽平!!......うちの......せいで......」
必死に滝川の背中をさする。

ああ、精華のせいじゃないのに。気にしなくていいのに。

「ケホ......気にしなくて......いい......からさ......せい......か」
視界がぐにゃりと歪む。身体が言うことをきかない。


ダメだ......意識が......遠のく......


滝川はゆっくりと地面に倒れ、気を失った。








「!精華!あ、あれ?......俺の部屋!?」
がばっと跳ね起き、見慣れた自分の部屋を見回す。

いつもと同じ、殺風景な部屋。

目が覚めると、滝川は自分のアパートにいた。

「目が覚めた?」

台所から、森精華がやってきた。更に驚く滝川。

「せ、精華!?何で俺の部屋に......運んでくれたの?......俺を」
「え、う、うん......」
顔をかああと赤らめ、滝川のすぐ隣に座る森。
「......そっか、サンキュな」
「......ねえ、陽平」
「ん?何?」



「うち、もう逃げようなんて言わないから......だから......」



うつむき、震えだす森。
「......精華......」
そんな森を、優しく抱きしめる。

精華のこと、安心させたいから。

「精華......もう、もういいからさ、......学校行こう?」
「うん......」




熊本の空は晴れている。暖かい日光が心地いい。

いつものように森が滝川に手作りの弁当を渡し、
いつものように満面の笑顔で滝川がそれを受け取り、
いつものようにお互いに手をしっかりと握って学校に向かう。

「いい天気ですね......陽平」
「うん、そうだな......なあ、精華」
「何?」

「その......もし......もしさ、また逃げたくなったら、言って。どこへでも連れてくから」

滝川の紫色の瞳が、こちらを覗いている。
握った手に力を込める。


陽平は、私が地球の裏側に行きたいと言ったら......
私の手を取って地球の裏側まで連れて行ってしまうのだろう。


「......陽平......ありがとう......でももう......うち、逃げようなんて言わないから......」
「うん......急ごう、精華......遅刻しちまう」
「そうですね......急ぎましょう」




二人は手を取り合いながら、学校へと駆け出した。



私は......ずっと陽平と一緒にいよう。この......紫の瞳の少年と。ずっと......一緒に。






<あとがき>
お題で仕上げた作品三つ目です。速舞もほんの少し。
何と言いますか...
あんましお題に沿ってない(汗)スイマセン...

滝川絢爛舞踏ネタはまたコミックか何かでやりたいですね

戦闘アクション二回目の挑戦。何て難しいんだ....





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